本研究は、「過労死」をもたらす基礎的病態として耐糖能異常および高血圧症に着目し、これらの疾患を有する労働者に職業上の様々な労働負担が及ぼす健康影響を行動生理学的手法を用いて明らかにしようとした。 まず、中高年労働者164名について、ブローカ指数、収縮期および拡張期血圧、聴力損失、γ-GTP、総コレステロール値、ヘモグロビン濃度、敏捷性、平衡性、心肺持久力、筋力、筋持久力、柔軟性、運動習慣の14項目を用いて主成分分析を行った。その結果、第1主成分(心肺機能関連要因)、第2主成分(体幹筋関連要因)、第3主成分(筋力関連要因)、第4主成分(聴覚および平衡機能関連要因)、第5主成分(体格関連要因)が抽出された。第2主成分から第5主成分は運動習慣と有意に関連し、健康診断成績と体力指標の包括的評価と保健指導に役立てる必要性が示唆された。次に、製鋼業に従事する中高年男子90名を75g経口糖負荷試験成績と肥満度から4群に区分し、一般健康診断成績を中心として比較検討した。その結果、耐糖能異常の有病率は、現業系日勤者、事務系日勤者、現業系交替制勤務者の順に多い傾向が認められたが、耐糖能異常の水準には大きな差異が認められなかった。耐糖能異常に多く認められる高血圧傾向も交替制勤務者に多いことが明らかとなった。そこで、夜間勤務に従事する服薬中の高血圧症患者と正常血圧者各2名を対象として、携帯型自動血圧計による24時間血圧および心拍数測定、ポケットフリッカー(CFF)検査、疲労自覚症状調べなどを実施し行動生理学的検討を行った。その結果、高血圧症患者は正常血圧者に比し、夜間勤務中は自覚症状に差異は認められないが、収縮期血圧の持続的な上昇傾向とともに時間変動におけるバラツキの多い特徴が認められた。したがって、夜間勤務の高血圧症患者には休養や服薬管理が重要であり、夜間勤務に伴う慢性的な蓄積疲労は高血圧の病態を悪化させるリスクファクターである可能性が示唆された。
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