本研究は、「過労死」をもたらす基礎的病態として耐糖能異常および高血圧に着目し、これらの疾患を有する労働者に職業上の様々な労働負担が及ぼす健康影響を行動生理学的手法を用いて明らかにしようとした。 まず、第1に耐糖能異常に着目し、中高年男子90名を75g経口糖負荷試験成績と肥満度から4群に区分し、健康診断成績を中心として比較検討し、耐糖能異常の有病率と勤務条件との関連を検討した。その結果、耐糖能異常の有病率は、現業系交替勤務者に多く認められた。耐糖能異常に多く認められる高血圧傾向も交替制勤務者に多い傾向が認められた。第2に中高年男子164名を対象に一般健康診断成績、体力測定値および運動習慣の相互関連性を明らかにするために主成分分析を行い総合特性値の抽出をめざした。その結果、健康診断成績と体力指標の包括的評価と保健指導に役立てる必要性が示唆された。第3に交代制勤務に従事する服薬中の高血圧症者2名と正常血圧者2名を対象として、ポンプ駆圧式携帯型自動血圧記録計を用いた24時間の血圧および心拍数測定、ポケットフリッカー検査、疲労自覚症状調べなどを実施し行動生理学的検討を試みた。そして、血圧、心拍数の生理学的指標に対して、最大エントロピー法を用いた時系列解析(パワースペクトル解析)を行い、人工合成曲線を用いて個々の時間変動の特徴を見極め、生体時系列変動に内在する基本変動(リズム)をできるかぎり原データに即して抽出することを試みた。その結果、高血圧症者は正常血圧症者に比し、夜間勤務中は自覚症状に差認められないが、収縮期血圧の持続的上昇傾向とともに時間変動におけるばらつきの多い特徴が認められた。したがって、交替制勤務に従事する高血圧症者には休養や服薬管理が重要であり、慢性的な疲労は高血圧の病態を悪化させる危険因子である可能性が示唆された。
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