研究概要 |
本研究は、許容濃度に近い比較的低濃度の有機溶剤に、反復暴露された場合に生ずる慢性的な中枢神経障害の程度と暴露を受けた年齢との関係をトルエンについて、若齢(青年期)と老齢ラットを用いて量一反応関係を次の二つのレベルから検討してきた。[(1)神経行動学的テストバッテリ-による評価、及び(2)in vivo brain microdialysisによって、free movingの状態で海馬のMuscarinic acetylcholine (Ach) receptorの応答の変化]。 我々は昨年度、「青年期における低濃度トルエン長期暴露(12週間暴露)は、DRL12secの時間どり行動の習得過程において、暴露群(100ppm、400ppm、1000ppm)の習得が対照群に比較して有意に早かったが、最終的到達度は、老齢期暴露の場合とは異なり4群間に差は無かった」という結果を報告した(Jpn.J.Ind.Health vol・36,supppl.(1994)、P.S414)。今年度は、青年期のラットの海馬Achり動神経系についてin vivo brain microdialysisにより検討した。 Fischer系雄ラットを昨年の学習実験と同一条件(給餌条件、暴露開始年齢、暴露条件)で飼育。生後4〜5カ月齢から1日4時間、週6日、12週間暴露(0 ppm 100ppm,1000ppmの3群、各群 n=7)。暴露打ち切り後4週目、プローブを挿入した24時間後の明期にダイアリシスした。ベースラインが安定後にScopolamineを投与(0.2mg/ml/Kg,ip)して,AChとCholineの細胞外濃度を15分毎に定量、同時にAutomexを使用して行動量を測定した。 その結果、暴露打ち切り後4週間後の若齢(青年期)ラットの海馬のMuscarinic Ach receptorには低濃度トルエン長期暴露の慢性的影響は無いことが示唆された。老齢期暴露の場合には、100ppm暴露であってもMuscarinic Ach receptorに慢性的影響があることが示唆されたことから、比較的低濃度のトルエン長期暴露による慢性的中枢神経障害の発現には、暴露された時期の年齢要因が関係することが明かとなった。
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