今回塵肺の管理区分決定は、直接撮影による塵肺検診X線フィルムを塵肺標準フィルムと比較して重症度を判定する、という方法で行われている。しかしこれは、読影者の経験と勘に基づいた主観的な判定の要素が入ることは否定しがたい。事実、塵肺専門家の間でも、同じフィルムが1型から3型まで大きく意見が分かれるということが珍しくない。しかしこの判定に基づいて管理区分が決定され、その後の医療上、健康管理上の取扱が大きく異なり、社会的にも影響を与えてきた。そこで、塵肺X線フィルムの重症度判定の客観化を目指して、通常のビデオカメラとデジタイザーおよびパソコンに接続した画像処理装置NEXUSを用い、X線フィルム上の画像情報を簡便かつ定量的に読み込むシステムを開発した。次にこれを用いて、石綿肺の肺線維症の広がりに対応する簡便かつ定量的な画像情報表現法として、右肺野中央部の鉛直方向のX線吸収率を選択した。じん肺標準フィルムの内、石綿肺の測定を行ったところ、横隔膜直上と肺尖部との吸収率に差は3型が最も大きく、X線吸収率の鉛直方向の変化は型の進展に対しておおよそ一次式で回帰できることが示された(各型を等間隔とすると型数と吸収率の傾きとの相関係数は0.95)。なお、12番の標準フィルムの吸収率の傾きは2型でありながら1型の2枚にかなり近く、特異であることがわかったが、このことは今後標準フィルムの改訂等に際し参考になろう。現在、鎖骨と横隔膜を結ぶ線のずれにによるばらつきの影響を測定し、その合理的な決定法を検討している。今後、第一に実際の石綿作業者の長期の間隔をおいたフィルムを多数測定し、この指標の妥当性を確認すること、第二にこの指標の経年変化に喫煙が与える影響を調べるという二点の検討を予定している。
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