ヒトは生物学的にひとつの科(ヒト)ひとつの属(ホモ)ひとつの種(サピエンス)に属しているが、人類学的にはその身体的特徴からいくつかの人種(人類集団)に分類することができる。遺伝的にはこれらの人類集団に特徴的なマーカーは血液型や酵素多型にわずかに報告されているにすぎない。本研究は人種(人類集団)に特異的なDNAレベルの遺伝マーカーを検索・開発し、集団遺伝学的解析を行うとともに法医学的応用への有効性について検討することである。 現在までに1)DNAクローニングおよび2)DNAデータベースによる検索を試みてきた。クローニングによるDNAマーカーはまだ得られていない。一方、DNAデータベースによる検索では多型性が高く、法医実務で扱われる微量試料に特に有効な手段であるPCR法で検出できるSTR(マイクロサテライト)に着目した。機能的制約を受けることの少ない非蛋白翻訳領域に存在するSTRのいくつかについて、日本人集団からDNAサンプルを抽出しPCR法で増幅し遺伝子頻度を算出した。すでに報告のある白人種の遺伝子頻度の分布と比較した結果、明らかに遺伝子頻度の分布が全く異なるSTRをみいだすことができた。これらは人類集団のマーカーとして有力なだけでなくSTR多型の成立機構に大きな知見をあたえるものである。現在、ほかのSTRについて調べるとともに、遺伝子頻度分布の大きく異なるSTRについて詳しい解析を行っている。
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