本研究の目的は、人種(人類集団)に特異的なDNAレベルの遺伝マーカーを検索・開発し、集団遺伝学的解析を行うとともに、その法医学的応用への有用性について検討することである。本研究では多型性が高く法医実務で扱われる微量試料に特に有効な手段であるPCR(polymerase chain reaction)法で検出できるSTR(short tandem repeat)領域に着目した。まず、DNAクローニングおよびDNAデータベース(Gen Bank)からの検索により多型性を示すSTR領域を選択した。DNAクローニングにおいては、3つのSTR(TG dinucreotide repeat)を含むクローニングを獲得したが、いずれも個体間における繰り返し回数の多型は認められなかった。DNAデーターベース(Gen Bank)からの検索では、8つのSRT領域を選択し、日本人集団におけるSRT多型頻度がある座位については、その分布に関する比較検討を行った。その結果、一般的にSTR多型のアリル頻度分布においては、人種の違いによりその出現傾向に特徴的な差を有することが明らかになった。具体的には、人種によるアリル頻度分布の違い方を4つのタイプに分類することが可能であった。現時点では、このSRT多型をこのまま直接的に人種識別のマーカーとして用いることは出来ないが、今後検討する座位や人種の種類、populationの数などをさらに増やすことによって、基礎的データを蓄積し、さらに実際の法医実務に応用するための方法論に関しても検討を進めていく必要がるものと考えられる。
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