1.(1)健康成人男子から提供されたヒト精液検体223例をろ紙上に滴下乾燥させた。(2)法医解剖時に採取した主要臓器組織をホモジネート後遠心し、上清をろ紙に付着乾燥させた。(3)正常分娩時に得られたヒト胎盤組織をホモジネート後遠心し、上清をろ紙に付着乾燥させた。 2.(1)各種pH範囲を有するアンフォラインを用いポリアクリルアミドゲル板を作成し、等電点電気泳動後S-benzyl-L-cystine-p-nitroanilideを基質としてオキシトシンーゼ活性を染色した。(2)10%水解でんぷんを用いてでんぷんゲル電気泳動後同様の方法によりオキシトシナーゼ活性を染色した。 3.(1)ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動法ではヒト精液オキシトシナーゼはゲル板全体にびまん性に弱く染色され、pH範囲を各種に変化させても、バンドと検出されるまでには至らなかった。(2)でんぷんゲル電気泳動法ではヒト精液オキシトシナーゼは3本のアイソエンザイム帯に明瞭に分離され、223例を調べてすべて同じパターンで多型や変異型は識別されなかった。ヒト胎盤では精液の3本のバンドと移動度の異なる2本のバンドが検出された。ヒトの主要臓器組織ではいずれも全くバンドとして検出されなかった。 4.ヒト精液オキシトシナーゼには今回の方法を用いるかぎり遺伝的多型を確認することができず、個人識別への応用は不成功であった。しかし、でんぷんゲル電気泳動法では精液検体全例とも同一パターンを示し、胎盤のみが精液と異なる2本のバンドを示し、他の臓器組織では明確なバンドを欠いている点で、精液斑の同定が可能であることを見い出した。今後はヒトの他由来の体液斑のパターンをチェックし、実際の事件例への応用性を検討していく計画である。
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