7例の胃癌の手術材料から胃の非癌部の粘膜を採取し、Lowicryl K4Mを用いて、-35℃で低温紫外線重合を行い、電子顕微鏡用試料を作製し、直径20nmで金コロイドで標識された抗Aならびに抗Bレクチン及び5nmの金コロイドが標識された抗Hレクチンで染色し、超微形態学的観察を行った。血液型物質は主に粘液細胞の粘液顆粒に多く認められ、A型またはB型のヒトの胃粘膜ではA型またはB型物質を多く認める粘液細胞やH型物質を多く認める粘液細胞が混在し、個々の細胞間に血液型物質の産生に関して差が認められるという結果がえられた。また、個々の粘液顆粒における血液型物質の分布について検討したところ、H型物質とともにA型またはB型物質が混在している粘液顆粒が多く認められたが、いずれかの血液型物質のみを認める粘液顆粒細胞も認められた。また、血液型物質はゴルジ小胞にも認められ、ゴルジ小胞ではA型、B型、H型のいずれかの血液型物質のみが認められ、これらの血液型物質が粘液顆粒に輸送されていく像も認められた。 1例のA型の胃全摘手術標本から得られた食道粘膜上皮のABH血液型物質の超微形態学的観察ではA及びH型血液型物質はゴルジ小胞や細胞膜に認められ、血液型物質はゴルジ小胞で合成された後、細胞表面に輸送されることが観察された。 われわれは血液型物質の分布には組織間で差があり、また、同一組織においても個々の細胞間で血液型物質の分布に差があることを明らかにしてきたが、今回えられた結果は同一細胞における小器官の間でも血液型物質の産生や分布には差があることを示唆しているものと考えられる。
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