電子スピン共鳴法(ESR)は不対電子(ラジカル)のみを検出するので試料の精製が不要であり、また分子の同定が可能で、非常に感度のよい方法である。これらESR法の利点を生かし、組織、体液中の除草剤パラコート、ジクワットをラジカルに変換し、今までに報告されていない微量レベルで分析定量した。またこの種の薬剤は生体内で有害なO_2を産生し産生されたO_2はビタミンEやビタミンCなど生体内の抗酸化剤により無毒化される。これらの除草剤の毒性発現のメカニズムを知るために、ビタミンE欠ラットにこれらの除草剤を投与したが、ビタミンEには防御作用がなかった。 ビタミンCの酸化物の一つであるアスコルベートラジカルについても定量した。パラコート中毒のラットのみならず、パラコート、ジクワット中毒のヒトにおいても、アスコルベートラジカルが増加していること、また中毒血漿中ではこのラジカルの半減期が正常よりも短いことが判明した。 さらに、ヒトにおけるこれらの薬物耐性を調べるために、ヒトに欠損しているのと同一の酵素を欠損しているビタミンC合成不能(ODS)ラットを用いて同様な検討を行った。餌中に250ppmのパラコートを投与したところ、通常ラットは平均14日で中毒症状を示すが、ODSラットは平均8日と6日も早く発症した。またODSラットは正常の発育に必要とされるビタミンC量の10倍量を与えても、中毒発症を1日しか遅らすことができなかった。ESR法にてこれらのラット組織中のパラコートを定量したところ通常ラットの肺での濃度は0.8μg/gであるのに対し、ODSラットのそれは0.1μg/gで、ODSラットは非常に低い濃度であるにもかかわらず、発症していることが示された。ビタミンCを10倍与えても、中毒時には肺のビタミンCは正常の60%に過ぎないことがODSラットが中毒に弱い原因の一つであろうと思われる。
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