研究概要 |
昨年度までに,健常人に不顕性感染しているEpstein-Barr(EB)ウイルス遺伝子がヒトの後天的なDNAマーカーとなりうる可能性を示した.EBウイルスの塩基配列を調べると,ウイルス遺伝子内には数種の反復配列構造が存在していることがわかる.これらの反復配列構造は,法医学で使用しているミニサテライトやマイクロサテライトなどのDNAマーカーのように,異変が起こりやすい部位ではないかと推測できる.そこで,平成7年度では,ヒトの末梢血DNAからこれらの反復配列領域をそれぞれsemi-nested PCR法により増幅し,サザンブロット法を使うことによって,これらの部位がEBウイルスの不顕性感染中に異変を起こすかどうか検討した.この結果,今回選択した5種の反復配列領域のうち2種において,ヒト末梢血DNAのPCR増幅産物の電気泳動像が数本のバンドとなり,EBウイルスの長期感染中にウイルス遺伝子の反復配列領域が変異を起こしているものと推測された.そして,この変異のパターンが各個人によって異なっていたため,EBウイルスの反復配列領域を後天的DNAマーカーとして考えることができると思われた.しかし,同一人において,不顕性感染しているEBウイルスは単一のstrainなのかどうか,あるいはヒトの一生を通じて常に同じstrainのウイルスを持ち続けているのか,そしてまた,そのウイルスはヒトの一生を通じてマーカーとなるような不変な部分をもちうるのかなど不明な点もあり,これらは今後の検討課題である.
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