研究概要 |
本研究の目的は、形態学的レベルでは診断が困難な突然死、特に心臓突然死剖検例において、その病態や病因、更に診断究明のための手段として分子レベルでアプローチすることにある。そこで突然死剖検例からの死体血を用いて、心筋内酵素群のアイソザイム分析を含めた一般的臨床生化学的検査に加え、心筋組織を用いて心筋の収縮たんぱくや構造たんぱくの免疫組織化学的分析、心筋のDNA、特にミトコンドリアDNAの分析を行っている。これまでのところ、死体血の一般臨床生化学的検査においては、各種パラメーターの死後の動向を含めて分析し、生前の病態を示唆していると思われる。パラメーター、即ち死後変化に耐え得るパラメーターを選別したところ、急性心筋虚血のパラメーターとして臨床的に広く応用されているGOT,GPT,LDH,CPK,ミオグロビンなどの酵素やたんぱくは死後の血中濃度が著しく上昇するため使用できないので、LDHやCPKのアイソザイム分析を中心に行うことにした。DNA分析は症例数が少なく、まだ報告できる段階ではないが、今までのところ著しい異常を示した例は認められていない。心筋収縮たんぱくや構造たんぱくについてはミオグロビン染色を対象として、alpha-アクチニン、デスミン、カルモジュリンなどについて免疫組織化学的分析を行っている。alpha-アクチニンの動向がミオグロビン染色の場合と同様に早期心筋虚血の組織診断に有用と思われ、ミオグロビン染色よりもむしろクリアカットに識別可能であり、心筋の構造たんぱくの動向が早期心筋虚血の指標となり得る点が示唆された。今後更に症例を増やし、心臓突然死における分子レベルでの分析の基礎データとしたい。
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