マウス自己免疫性甲状腺炎病変部より樹立された4種類のCD4^+T細胞クローンを用い、T細胞芽球化反応を指標として甲状腺炎の発症に重要なサイログロブリン(Tg)のエピトープ(抗原決定基)の解析を試みた。まず初めに、マウス、ウシ、及びヒト由来のTgに対する反応性を検討した結果、FluniqueMHC(H-2^<b/k>)に拘束性を持つクローン、N5P-OE14(TCRVβ8.3)は、マウスTgに反応したが、ウシ及びヒトTgには反応せず、I-A^b拘束性のN5P-0E15(Vβ2)は、マウス及びウシTgに反応したが、ヒトTgには反応しなかった。また、I-A^k拘束性のN5P-3B2(Vβ14)、及びN6G-4B1(Vβ不明)は、マウス、ウシ及びヒトTgのいずれにも反応した。以上の結果よりTgには少なくも3個以上の甲状腺炎を誘導するエピトープが存在すると考えられた。これはF1個体の末梢リンパ組織に存在する、甲状腺炎を誘導する自己反応性T細胞の抗原認識様式の多様性を示唆するものである。次に、我々はホルモン合成に関与するチロシン残基を含む部位に着目し、3種類の合成ペプチドを作成した。TA(HTg1-11)のアミノ酸配列はマウスについては不明だがウシと全く同一である。TB(HTg 2546-2571)はヒト、ウシ、ラットという種を越えて非常に相同性が高い部位である。一方、TC(HTg2738-2748)はウシには類似しているがラットとは相同性がやや低い。また、TBはRothbardのAlgorithmに合致するエピトープとなる可能性の高い部位を含んでいる。これら合成ペプチドに対する増殖反応を検討した結果、T細胞クローンはいずれも、TA、TB、TC、及びTB-1(ヨード化TB)に対し有意な増殖反応を示さなかった。即ち、甲状腺炎病変部より分離さり甲状腺炎を誘導する能力を持つCD4^+T細胞クローンが、チロシン残基を含むホルモン合成部位をエピトープとして認識しないことが示された。
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