自己免疫疾患の増悪機序を明らかにするために、破壊性病変を主体とする橋本病と刺激性病変を主体とするバセドウ病のある自己免疫性甲状腺疾患をモデルに、それぞれの甲状腺浸潤リンパ球の解析を行い、それらの結果を比較することにより、自己免疫性甲状腺疾患の破壊性および刺激性増悪に関与するリンパ球サブセットを明らかにすることを試みた。 フローサイトメーターを用いた解析より、橋本病の破壊性増悪時に特徴的な変化として、末梢血に比し甲状腺内で細胞傷害性T(T_C)細胞の増加を認め、バセドウ病の刺激性増悪時に特徴的な変化として、CD5陽性B細胞の増加を認めた。また、橋本病およびバセドウ病の両疾患に共通の変化として、末梢血に比し甲状腺内で甲状腺自己抗体産生能を有するCD5陰性B細胞の増加およびTαβ細胞の減少を認め、さらに甲状腺内免疫応答の増強を示唆するヘルパーT(T_H)細胞の増加、サプセッサー・インデューサーT(T_<SI>)細胞、サプレッサーT(T_S)細胞およびNK細胞の減少を認めた。従って、甲状腺自己免疫応答の増強により甲状腺内でCD5陰性B細胞が増加し、甲状腺自己抗体の産生が誘導されているものと考えられた。そして橋本病ではT_C細胞が甲状腺組織破壊に働き、バセドウ病ではCD5陽性B細胞がTSHレセプター杭体(TRAb)の産生に深く関与していることが示唆された。さらに、これらの変化が橋本病およびバセドウ病の増悪時にそれぞれ特徴的に認められる末梢血リンパ球サブセットの変化と合致しており、解析困難なヒトの疾患の増悪機序の解明を進展させることができた。
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