研究概要 |
1.肝細胞増殖因子(HGF)による家兎胃粘膜上皮細胞の増殖刺激作用:HGFは肝細胞の強力な増殖刺激因子であるが,胃粘膜上皮細胞に体する影響は報告がない.そこで家兎初代培養胃粘膜上皮細胞で検討したところ,HGFは強力に家兎胃粘膜上皮細胞の増殖を刺激した.その最大刺激作用はEGF・TGF_α・insulinより有意に強かった.一般にHGFは繊維芽細胞などの非上皮細胞で産生されるが,初代培養家兎胃粘膜繊維芽細胞の培養調整液にも同様の増殖刺激作用があり,この作用は兎HGFに対する抗体で阻害された. 2.肝細胞増殖因子(HGF)による家兎胃粘膜上皮細胞の遊走刺激作用:我々は単層培養に人工的に径1.5mmの穴をあけその修復過程を位相差顕微鏡で観察する事により定量的な遊走刺激作用の検討を行った.人工的に作成した傷の修復はシクロヘキサミドでは影響されず増殖ではなく遊走に主に依存した過程と考えられた.HGFは単層の培養家兎胃粘膜上皮細胞の修復を強力に刺激し,その作用はEGF・insulinより強力であった.初代培養家兎胃粘膜繊維芽細胞の培養調整液にも同様の増殖刺激作用があり,この作用は兎HGFに対する抗体で阻害された. 3.初代培養家兎胃粘膜上皮細胞・繊維芽細胞におけるHGFおよびHGFレセプターの発現:^<125>I-HGFを用いたbinding assayでは初代培養家兎胃粘膜上皮細胞にはhigh affinityのHGFのbinding siteが存在すると考えられた.HGFのレセプターはc-metと呼ばれるproto-oncogeneであるがnorthern blottingにより培養家兎胃粘膜上皮細胞にc-metの発現が認められた.初代培養家兎胃粘膜繊維芽細胞にはc-metの発現は殆ど認められなかった.人HGF-cDNAを用いたnorthern blottingではHGFの発現は初代培養家兎胃粘膜繊維芽細胞には認められたが初代培養家兎胃粘膜上皮細胞には認められなかった. 4.人胃潰瘍におけるHGFの発現:人胃潰瘍のbiopsy材料を用いてHGFの発現をRT-PCRおよび免疫組織化学で検討した.RT-PCRでは潰瘍辺縁のbiopsyからは正常組織に比べて有意に高い頻度でHGFのmRNAの発現が検出された.免疫組織化学ではHGFの発現が潰瘍辺縁の繊維芽細胞に特異的に観察された. 5.以上の結果により家兎胃粘膜上皮細胞の増殖の刺激および抑制因子が明らかとなり,HGFが胃粘膜の修復に重要な因子である事が示唆された.
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