C型肝炎慢性化の機序として他の慢性ウィルス感染同様免疫応答が十分に機能しない可能性が想定される。その理由として考慮されるのは(仮説1)ウィルスが免疫担当細胞にも感染しウィルス自体が有する細胞傷害効果により免疫能が障害される、および(仮説2)ウィルスが変異によって免疫監視機構から免れている、という2点である。 従って本研究課題ではまず光顕レベルでのin situハイブリダイゼーションによって肝組織上の炎症細胞にHCVが存在しているかをC型慢性肝炎20症例の肝生検標本を用いて調べた。その結果、感染細胞は肝細胞に限局していることが明らかとなった。従って上記(仮説1)の可能性は否定的と考えられる。 さらに(仮説2)を検証するため、光顕レベルで複数のcloneが共存するかを調べ、cloneによる免疫応答の差異の有無を検討した。即ち、経時的に採血した検体につき、SSCP(single strand conformation polymorphism)-PCRでウィルスの超可変領域(HVR)の遺伝子塩基配列を解析し、複数のcloneが共存する一例について、major cloneおよびminor cloneの配列をもとにオリゴプローブを作製してin situハイブリダイゼーションを行ない、光顕レベルで複数のcloneが一つの感染細胞に共存するかどうかを調べた。その結果、血液中の主要cloneに特異的なシグナルが検出された細胞は、全てのcloneに共通の配列を有するcore領域のプローブで検出される細胞群の一部に過ぎないことが明らかとなった。またmajor cloneに特異的な細胞群は炎症性細胞浸潤とは無関係であった。一方、minor cloneに特異的なプローブによるin situハイブリダイゼーションは陰性であった。以上より、細胞により感染HCVのcloneは異なる可能性が示され、かつ検証症例では主要cloneは免疫監視機構から免れている可能性が示唆された。しかしながら、本研究ではcloneを選択的に検出するプローブはHVRに由来するものであり、他方HCV全体を検出するプローブはcore領域に由来するため、ウィルス遺伝子の立体構造の差異等によるin situハイブリダイゼーションの検出感度の差が結果に影響を与えている可能性を否定できず、今後症例を重ねて検討する必要があると考えられる。
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