ハイブリッド型人工肝開発には、急性肝不全患者血漿中でも肝細胞がその機能を発揮し得るか否か、長期間、高度の肝細胞機能を発現する培養肝細胞を得るための肝細胞増殖、分化機能制御機構の解明が必要となる。1.劇症肝炎患者血漿の影響:人工マトリックスであるPVLA(poly-N-p-vinylbenzyl-D-lactonamide)上での肝細胞多層集合体、コラーゲンゲル上での単層培養肝細胞に患者血漿を添加(100%)し肝細胞機能について検討した。その結果、アルブミン合成、尿素窒素合成、糖新生とも単層培養系、多層集合体いずれでも患者血漿添加群は正常血漿添加群、培養液群と差異を認めなかった。またPVLA群ではコラーゲン群に比し血漿総アミノ酸濃度の有意な低下を認め、Fischer比(分枝鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸モル比)はコラーゲン群では低下したのに対し、PVLA群では保持されていた。すなわち、劇症肝炎患者血漿中でも分離肝細胞は良好な機能を発揮した。2.肝細胞の増殖、分化機能の制御機構:細胞外マトリックスとしてコラーゲン、PVLA、EHS(Engelbreth-Holm-Swarm)ゲルを用い、分離肝細胞のDNA合成を検討したところ、コラーゲン群で最も高く次いでPVLA群で、EHSゲル群で最も低値であり、転写因子c-myc mRNAの発現はコラーゲン、PVLA群では認められたがEHSゲル群ではみられなかった。一方、アルブミンmRNAの発現はEHSゲル、PVLA群では培養9日目でも維持されており、転写制御因子であるHNF(hepatocyte nuclear factor)-4の発現とほぼ同様な推移であった。すなわち、細胞外マトリックスは転写因子の発現を介して肝細胞増殖、分化を制御していることが考えられた。
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