揚子江下流域の肝癌多発地区に該当する南通近郊の肝疾患患者についてC型肝炎ウイルス(HCV)感染率とHCVゲノムの特性を明らかにし、肝癌多発の原因とHCVとの関連性を究明することを目的として、平成5年度から本研究を開始し、これまでに次のような知見を得た。 1.肝癌の発生率には地域差があり、中国、特に揚子江下流域に肝癌多発地区が存在した。 2.肝癌多発地区におけるHBV感染率は極めて高かったが、供血者および慢性肝疾患患者のHCV感染率は、0.7%、11.6%で、南通ではHBV感染が肝疾患の主な原因と考えられた。 3.南通のHCV陽性例のうちALT上昇例は80.7%に、輸血歴は61.4%に認められた。 4.中国のHCVゲノタイプは地域差がみられたが、南通ではII型が84.2%、III型およびII/III型がそれぞれ7.9%で、II型が優位を占め、日本の分布状況と近似していた。 5.HBV陰性の慢性肝炎患者から得られた南通型HCV株(HCV-N)は、核酸およびアミノ酸レベルの相同性より日本型、北京型、台湾型の順に近似していた。 6.HCV-Nのコア領域は、慢性肝炎例に比べ肝癌例で変異が強く、特に2番目の大きな親水性ドメイン内アミノ酸コドン39〜76番目の領域に顕著であった。さらに、これらの変異の過半数がmissennse mutationであり、transversionも伴っていた。 これらの研究成果からHCVゲノムの存在状況は日本と類似しており、肝癌多発におけるHCVの関連性が示唆された。
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