研究概要 |
本研究では、胃粘膜細胞における細胞骨格を介した酸化ストレス応答の分子機構の解明を目指した。すでに、酸化ストレスにより生じるアクチンのS-thiolationについて、その生理的役割について明らかにしている。今回は、グルタチオン枯渇細胞を用いて、グルタチオンが、ストレス蛋白質遺伝子の転写の活性化に関与する事を明らかにした。培養胃粘膜細胞は、熱ショック、エタノール、過酸化水素、およびdiamide処理により、ストレス蛋白質を始めとするいくつかの蛋白質を誘導したが、グルタミルシステイン合成酵素阻害剤であるButhione-〔S,R〕-sulfoximine(BSO)の処理により細胞内グルタチオンを枯渇した細胞では、これらのストレス蛋白質の誘導が認められない事を見いだした。このメカニズムについて、グルタチオン枯渇細胞では、熱ショックによるHSP70 mRNAの発現が認められないことをノーザンブロット法で確認した。さらに、ストレス蛋白質の転写因子(HSF)の活性化について、HSP70遺伝子のプロモーター領域のシス結合領域(HSE)を用いたゲルシフトアッセイで検討した。グルタチオン枯渇細胞では、HSFの蛋白質量は変化していないが、HSFの活性化が認められない事を見いだした。この転写因子の活性化の阻害のメカニズムとして、グルタチオンを枯渇すると、HSFの核内への移行が阻害される事を見いだした。これらの結果については現在論文投稿中である。この他の研究成果として、抗潰瘍薬であるテプレノンはエタノールによる培養胃粘膜細胞の剥離を防ぐ作用があることを見いだし、その作用機序として、テプレノンは、ストレス蛋白質を誘導する事を明らかにした。この結果についても現在論文作成中である。このように、2年間の研究科題については、十分な成果を挙げることが出来た。
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