研究概要 |
既に我々が確立したHelicobacter pylori(HP)持続感染モデルを用いて、更に3年間の経過を観察し、HP陰性群と比較検討した。本モデルの観察によりHPは3年間の長期にわたり猿の胃粘膜に持続感染し得ることが確認された。 更に、経時的に胃内視鏡検査を行い胃生検標本を採取し持続感染による胃粘膜の変化を検討した。その結果HPの持続感染により組織学的胃炎は持続し、胃炎スコアは全経過を通じてHP陰性群と比較して有意に高値を示した。一方、胃粘膜上皮細胞内のperiodicac id-Schiff(PAS)陽性物質の量はHP陰性群と比較して有意に減少した。 内視鏡的胃粘膜切除術にて得られた組織標本を用いて胃腺高を測定すると、感染1.5年後頃より胃腺高はHP陰性群と比較して有意に低下しはじめ、感染2年後以降はプラトーに達した。これらの実験的な結果は、HPの持続感染により組織学的胃炎が持続し胃粘膜の萎縮性変化が進展することを示すものである。HPの持続感染と胃癌との関連性を検討する目的で胃粘膜上皮細胞中のBromodeoxyuridine(BrdU)陽性の増殖期の細胞の出現頻度をみると前庭部、胃体部ともにHP持続感染群においてその頻度は高率であり、HP感染により胃粘膜上皮細胞の細胞回転が亢進することが明らかになった。 今後、HP感染と胃癌発症との関連を検討するためには増殖期細胞の幅(増殖帯)の広がりなどの検討が必要であり、一部検討途中の結果ではKi-67陽性(G1,S,G2,M)の増殖帯が拡大する傾向を示しており今後の経過が注目される。
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