研究概要 |
ウシパピローマウイルス(BPV)由来ベクターは,その受容細胞(主としてげっ歯類)においては染色体外で複製増殖しコピー数が多いことが特徴であるが,これまでヒト細胞に用いられることは困難と考えられてきた。我々は既にヒト肝癌細胞株(Mahlavu)にchicken beta-actinをプロモーターとするマーカー遺伝子(chloramphenicol acetyltransferase:CAT)を含むBPVベクターを導入したところ,高コピー数の安定した発現が得られることを明かにした(肝臓,33,600-610,1992)。このことが,他のヒト腫瘍細胞に一般化されるかどうかを検討するため,ヒト子宮頚癌細胞(HeLa)とヒト大腸癌細胞(M7609)にlipofectin法を用いて同ベクターをトランスフェクトしたところ,Mahlavu細胞と同様にHeLaおよびM7609の両細胞においてもCATの高発現が得られた。染色体への組み込みの有無,コピー数をCAT probeを用いてSouthem法で分析した結果,Mahlavu細胞と同様にgenome DNAには組み込まれておらず,コピー数も400-500個と多かった。このtransformantより複製増殖している低分子DNAをクローニングし,遺伝子導入したプラスミドとの異同を検討したところ,同一であることが確認された。さらに,in vivoにおいてもこのプラスミドがベクターとして有用であるかを検討するために,M7609を皮下注したヌードマウスの腫瘍にlipofectamine法で2mugの同DNAを1回のみ注射し,3日,7日における同腫瘍でのCATの発現を検討したところ,1unit以上のCATの発現が得られ,しかも発現量の漸減傾向は認められなかった。現在,CATをthymidine kinase遺伝子に置き換えたベクターを作製中であり,これを用いて肝癌に対する遺伝子治療のモデル実験を予定している。
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