モルモットおよびヒト大腸摘出新鮮標本から粘膜上皮のみを鈍的に剥離し、酵素処理により粘膜細胞を分離後対向流遠心分離法を用いて大腸粘液細胞のみを単離した。単離細胞は組織化学的染色法により胞体内に粘液を含む粘液細胞と確認された。24時間培養後の単離培養細胞生存率は80%以上であり、^3Hでラベルしたチミジンおよびグルコサミンを添加し、さらに3時間培養したところ、経時的にDNA合成や粘液生合成活性の増加が確認された。この大腸単離粘液細胞浮遊培養系を用いて、各種薬剤を同時添加して3時間培養後に粘液生合成活性を測定した。非ステロイド系消炎鎮痛剤であるインドメサシン添加では、細胞生存率(Trypan blue 色素排泄法) ・細胞障害性(LDH 放出量測定法)は低濃度では変化なかったが、高濃度では生存率低下・障害性増強がみられたことから、高濃度インドメサシンには大腸粘液細胞に対する細胞障害性が示唆された。一方、増殖因子の一つであるECF添加により細胞生存率は上昇し、細胞障害性は低下がみられることから、EGFには細胞保護作用があることが示唆された。粘液生合成活性は、全ての濃度のインドメサシンで低下しており、EGF添加では全ての濃度で有意な変化はみられなかった。このことから、大腸粘液細胞の保護・障害に対する粘液合成の増減の意義は、胃粘膜における胃粘液の粘液細胞保護作用機序とは異なっている可能性が示唆された。そこで、大腸粘液細胞内の粘液糖蛋白質の糖鎖構造を、レクチン組織化学的方法と、レクチンプレートアッセイ法による生化学方法で検討した。その結果、各種薬剤添加による粘液細胞粘液生合成活性の増減にかかわらず、細胞内粘液糖蛋白質の糖鎖末端糖残基に変化はみられず、粘液組成にも変化は来していないものと推察された。
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