研究概要 |
1.肝硬変患者19例の血漿ピペコリン酸濃度と肝予備能との関連を検討した血漿ピペコリン酸濃度は血漿アンモニア濃度と強い相関がみられ(R=0.805,P<0.0001)総ビリルビン値とも相関がみられた(R=0.577,P<0.01)しかし、その他の肝予備能検査(血清アルブミン値,プロトロンビン活性,ICG15分値,BCAA/AAA比など)との相関はみられなかった。 2.肝硬変患者19例にカナマイシン1.5〜3.0g/dayを1‐2週間経口投与し、腸内細菌が減少したと思われるとき、血漿ピペコリン酸濃度がどう変化するかを分析した。カナマイシン投与により、19例中18例で血漿ピペコリン酸濃度の下降がみられた。投与前の血漿ピペコリン酸濃度は3.2±2.9nmol/ml、投与後は2.4±2.5nmol/mlであり,統計学的に有意な下降がみられた(P=0.0003)。投与前後で血漿リジン濃度,BCAA/AAA比に有意な差はみらなかったが、血漿アンモニア濃度は有意に下降した(前64±36nmol/ml,後48±11nmol/ml;P=0.046)。 3.肝性昏睡を発症した肝硬変患者1例の血漿ピペコリン酸濃度の経時的な推移について検討した。カナマイシンの投与により、血漿アンモニア濃度は下降し、肝性昏睡の改善がみられた。血漿ピペコリン酸濃度は、血漿アンモニア濃度とよく相関して下降したが、血漿リジン濃度やBCAA/AAA比との関連性はみられなかった。 以上から血漿ピペコリン酸の一部は、腸内細菌によってリジンから変換されたものが消化管より吸収されたものと考えられた。また、血漿ピペコリン酸濃度は肝予備能よりもむしろ血漿アンモニア濃度と強い相関があり、肝性脳症発症患者において血漿アンモニア濃度の経時的推移と一致することから、肝性脳症との関連が示唆された。神経生化学的にピペコリン酸はgamma-アミノ酪酸(GABA)作動性ニューロンにおいて、GABA〓レセプターのアゴニストといわれ、肝性脳症においてはGABA作動性物質の上昇が古くから指摘されており、ピペコリン酸が肝性脳症の発現に関与している可能性が示唆された。
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