1、ヒト肺小細胞癌細胞株NCI-H209細胞の10%牛血清添加細胞培養液中に蛍光ラベルしたホスホロチオエ-ト型DNAを添加したところ、DNA分子は1時間ですみやかに細胞内に取り込まれた。主に細胞核に局在し、弱く細胞質にも分布した。すみやかな取込みと細胞内の分布から、ホスホロチオエ-ト型DNAは遺伝子発現を制御する手法あるいは医薬品としても有望であると考えられる。 2、ヒト肺小細胞癌細胞株NCI-H209細胞においてL-mycタンパク翻訳開始部位を標的としたアンチセンスDNAはL-mycタンパク質の発現低下とともに細胞増殖の抑制を示した。一方、センス処理、コントロール処理ではL-mycタンパク質の発現低下も細胞増殖の抑制も認められなかった。よって、アンチセンス処理は、塩基配列特異的に遺伝子発現の低下と細胞増殖の抑制を示し、L-myc遺伝子の発現が細胞増殖の制御に強く関わっていることが示唆された。 3、NCI-H209細胞以外のヒト肺小細胞癌細胞株、すなわちL-myc高発現株のNCI-H510細胞およびL-myc無発現細胞のNCI-H82細胞においてL-mycタンパク翻訳開始部位を標的としたアンチセンスDNAの細胞増殖制御効果を検討した。その結果、NCI-H209細胞よりもL-myc発現レベルの高いNCI-H510細胞においてはマイルドな細胞増殖抑制効果を示したが、L-myc無発現細胞のNCI-H82細胞においては全く細胞増殖抑制効果を示さなかった。これによって、L-mycアンチセンスDNAの細胞株間における特異性が示された。 以上の基礎研究から、ホスホロチオエ-ト型DNAの遺伝子発現を制御する手法あるいは医薬品としての可能性が示唆された。
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