研究概要 |
ギランバレー症候群(GBS)急性期血中には高頻度に抗糖脂質抗体が検出され、経過とともに低下消失することから、病態に果たす役割が注目されている。しかし従来検索された糖脂質は限られており、未検索の微量糖脂質に対しても抗体が存在する可能性がある。ウシ脳粗ガングリオシドを対象として、そのような微量抗原を認識する抗体の検出と抗原分子の解析を行なった。粗ガングリオシドをDEAE-Sephadex A-25カラムにのせ、それぞれ0.05M,0.1M,0.2M,0.4Mの酢酸アンモニウムを用いて溶出して分画し、血中抗体との反応性をTLC免疫染色にて検討した。その結果、急性期GBS 50例中6例の血中に、0.1M分画(シアル酸2個をもつガングリオシドを主体とする分画)のGD1aの直下に移動度をもつ抗原(抗原X)に強く反応するIgG抗体がみられた。抗原Xはレゾルシノールにて発色することから糖鎖構造にシアル酸を含むが、Clostridium perfringens由来のシアリダーゼには感受性がなかった。以上から二個のシアル酸が一個ずつ基本糖鎖の末端以外の部位に結合している構造が推定され、抗原XはGalNAc-GD1aではないかと考えられた。抗原Xを精製し、FAB/MSにより解析したところ合致する所見が得られたので、抗原XはGalNAc-GD1aであると結論した。抗GalNAc-GD1a抗体陽性例は、電気生理学的に運動神経伝導速度の遅延はごく軽度で伝導ブロックのみられることもまれであるが、M波の振幅の低下が著明であることが特徴であり、最遠位の伝導ブロックあるいは軸索障害を主体とするGBSであると考えられた。現在GalNAc-GD1aに対するモノクローナル抗体の作成を試みており、それを用いてGalNAc-GD1aの局在の検討をすすめる予定である。本年度はフィッシャー症候群や眼球運動障害を伴うGBSに特異的に抗体がみられるGQ1bが、動眼神経・滑車神経・外転神経の傍絞輪部に局在すること、GBS血中抗体にしばしば認識されるGD1bが前根および後根の傍絞輪部に局在することなども報告した。
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