ギラン・バレー症候群では血漿交換が治療として有効であることから、液性因子が病態に関与していると考えられる。なかでも糖脂質抗体は急性期に高率に上昇がみられ、経過と共に低下消失することから、GBSの特異的な発症因子である可能性が高い。従来抗体活性は比較的主要な糖脂質を抗原として検討されてきたが、未検索の微量成分が抗体の標的となっている可能性があり、粗ガングリオシドを対象とした薄層クロマト(TLC)免疫染色により血中抗体活性の検討を行った。その結果GBS 50例中6例に、TLC上GD1aの直下のバンドに対する抗体活性が検出された。その抗原はDEAE Sephadex A-25カラム、シアリダーゼ処理およびイアトロビーズカラムにより精製し、FAB/MSによる検討を行った結果Ga1NAc-GD1aであることがわかった。抗GalNAc-GD1a抗体陽性の6例全例で消化器感染を先行感染とした。通常の電気生理検査ではcompound muscle action potentialsの振幅は著明な低値ないし導出不能であるのに対し、伝導速度は正常ないしは軽度の低下にとどまり伝導ブロックもまれであった。従って、抗Ga1NAc-GD1a抗体は軸索障害主体あるいは最遠位での脱髄性障害をきたす症例で上昇すると考えられる。今後Ga1NAc-GD1aの局在につき検討が必要である。マイコプラズマ肺炎はGBSの先行感染のひとつとして知られる。82例のGBS中4例がマイコプラズマ肺炎のものであったが、その4例全例で抗ガラクトセレブロシド(Gal-C)抗体が認められた。それ以外の78例のうち2例でも抗Gal-C抗体がみられたが、疾患対照および正常対照ではみられなかった。抗Gal-C抗体の存在はマイコプラズマ肺炎後のGBSに特徴的と考えられる。Gal-Cはミエリンの重要な抗原であることが知られ、ウサギでは抗Gal-C抗体による脱髄性ニューロパチーの作成が報告されている。抗Gal-C抗体はマイコプラズマ肺炎後のGBSにおける脱髄性ニューロパチーの発症に重要な役割を果たしていると考えられる。
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