研究概要 |
PETを用いて,アルツハイマー病患者で脳ブドウ糖代謝と脳酸素代謝を同時に測定し,アルツハイマー病の頭頂側頭葉におけるエネルギー代謝の状態を検討した.このデータはJ Nucl Med 1994に詳細を発表した.その概略は,アルツハイマー病の頭頂葉や側頭葉の代謝異常はブドウ糖代謝の低下が主で,酸素代謝の低下は比較的少ないことが示された.すなわち,アルツハイマー病ではTCAサイクルによるエネルギーの供給はある程度あるが,ブドウ糖を解糖して得られるエネルギーの供給が減少している可能性がある.これは,速いATPの供給が少なく,シナップスにおけるエネルギー供給が悪い状態で,アルツハイマー病の頭頂側頭葉での神経細胞間の情報伝達に障害が生じる原因となっていることを示唆するものである. この現象は頭頂葉などでの神経細胞エネルギー供給をTCAサイクルに依存した状態になっていることを示唆するので,心筋のTCAサイクルの研究に用いられているC11標識酢酸を用いて,アルツハイマー病の脳でのTCAサイクルの状態の評価を試みた.試験的に行ったデータでは,酢酸の脳への取込みは多くはないが,前頭部などに比較すると,頭頂側頭葉では酢酸が多く取り込まれており,TCAサイクルにエネルギー供給を依存した状態にあることが示唆された. 現在,動物実験で脳への取込みの状態を検討中である.C11標識酢酸をラットに投与して,脳内への取込みを液体クロマトグラフィーで測定している.また,一側前脳基底核破壊ラットでアルツハイマー病と同じアセチルコリン合成を低下させたラットに酢酸を投与して脳への酢酸の集積を動物用PETで測定している.
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