研究概要 |
Alzheimer病(AD)の基本的問題は、なぜ特定の神経細胞が変性し、神経細胞死に至るかという点である。神経細胞は、細胞膜表面に存在する各種受容体により外界情報物質を把握し、経膜的に細胞内に情報伝達物質を産生し、基質タンパクをリン酸化することにより細胞の機能を維持している。この様にタンパクのリン酸化は細胞の機能および生存維持に極めて重要な現象である。実際、NFTの構成成分としてtauが同定されているが、NFT内のtauは正常なtauとは異なり、過剰なリン酸化を受けていることが判明している。タンパクの異常なリン酸化のメカニズムの解明は、ADの病態解明に重要な課題といえる。タンパクの可逆的リン酸化は、プロテインキナーゼとタンパク脱リン酸化酵素であるプロテインホスファターゼの相対関係によって決るが、これまで、ADにおける異常なタンパクリン酸化の分子機構としてプロテインホスファターゼに着目した研究は国内外においてほとんどなされていなかった。そこで、研究代表者および研究分担者は、平成5年度、酸性ホスファターゼにリン酸化されたチロシン残基を脱リン酸する作用があり、AD脳ではチロシン残基の異常なリン酸化が指摘されていることに注目し、AD脳における酸性ホスファターゼの変化について検討した。Sephadex G-100カラムゲルクロマトグラフィーを用い、人工基質であるp-nitrohenyl phosphateを基質として酸性ホスファターゼを分離溶出すると、ヒト脳には高分子量と低分子量の酸性ホスファターゼが存在しており、AD群では対照群に比べ低分子量酸性ホスファターゼ活性が有意に低下していることを明らかにし、チロシン残基の異常なリン酸化機構に低分子量酸性ホスファターゼ活性の低下が関与している可能性を指摘した(Ann Neurol.,33:616,1993)。次なる重要課題は、この低分子量酸性ホスファターゼの同定とその脳内での内因性基質の同定である。
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