研究概要 |
アルツハイマー病,パーキンソン病など原因不明の神経変性疾患において,脳内微小血管,とくに血管内皮がどのような役割を果たしているかを検討する目的で,凍結保存された患者脳より脳内微小血管を単離し,その生化学的特性を検索した。まずアルツハイマー病脳を対象に,脳循環調節や血液脳関門機能に重要であるβアドレナリン受容体および共役するアデニレートシクラーゼ活性を測定した。微小血管分画を細動脈主体の分画と毛細血管分画に分けて検討したが,両者ともに単一で高親和性のβ受容体の存在が確認され,その数は大脳皮質の約1/2であった。年齢や剖検条件に差がなく,中枢神経系に異常を認めなかった対照脳と比較すると,アルツハイマー病脳では細動脈においてのみβ受容体数の減少が認められた。大脳皮質実質でみるとβ受容体は変化しておらず,これは従来の報告と一致した。親和性は実質,血管ともに対照と差がなかった。アデニレートシクラーゼ活性は,血管分画では実質での値に比べると20%以下と低値であったが,アルツハイマー病脳と対照脳の間に有意差は認められなかった。前頭葉,後頭葉,側頭葉,頭頂葉皮質をstarting materialとして同様に脳内微小血管を分離し,β受容体の変化を検討したが,部位別の違いは明らかではなかった。アルツハイマー病脳内細動脈分画でみられたβ受容体数の減少は脳実質での変化とは平行せず,血管特有の変化と考えられる。その意義は不明であるが,患者脳での血管反応性や循環動態の変化と関連している可能性がある。今後さらに例数を増やすとともに他の神経伝達物質受容体についても検討していく予定である。
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