私どもは高感度のtow-step polymerase chain reaction(PCR)法を開発し、HTLV-I-associated myelopathy(HAM)患者およびHAM以外のHTLV-Iキャリアーの剖検脳脊髄に存在する極く微量のHTLV-I proviral DNAの検出に成功した。本法を用いて多数のHTLV-Iゲノムをクローニングし、pX領域約1.6kbの塩基配列を決定した。この結果、ウイルス遺伝子や宿主側遺伝子の発現を調節するtax蛋白、rex蛋白という重要な調節蛋白をコードするpX領域に多数の変異を見い出した。中でもHAM患者脳脊髄に存在するHTLV-Iゲノムの約1/4はtaxまたはrex-defectiveなクローンであった。 次に、このような変異型pX遺伝子産物がin vivoで実際に発現している可能性を調べた。変異型taxまたrex蛋白の変異部分に相当するアミノ酸配列を人工合成し、これを抗原としてenzyme-linked immunosorbent assay法を施行した。HAM患者では42例中11例が変異蛋白に対する抗体が血清で陽性だった。これに対してHAM以外のHTLV-Iキャリアーでは25例中2例が陽性、HTLV-I陰性者40例は全例陰性だった。可溶性ペプチドを用いたcompetitive inhibition assayでもHAM患者のうち抗体陽性者は全例該当する合成ペプチドにより抑制がみられ、合成ペプチドに対する特異抗体がin vivoで産出されていると考えられる。このことはHAM患者および一部のHTLV-Iキャリアーでは変異taxまたはrex蛋白がin vivoで発現していることを強く示唆する。 私どもの研究により初めてHTLV-Iが多くの変異型ウイルスとwild typeのquasispecies(擬似ウイルス集団)としてin vivoで存在することが明らかとなった。しかも変異型ウイルス遺伝子がin vivoで発現しており、何らかの病的意義をもつことが強く示唆された。
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