研究概要 |
私共は最近、特異な臨床病理像を呈する遺伝性糖脂質蓄積症を世界で初めて見い出し、"A new syndrome associated with beta-glucocerebrosidase deficiency and a mosaic population of storage cells"と題して報告した(Acta Neurol Scan 1992;86:407-420)。本年度は、本症候群におけるbeta-glucocerebrosidaseの遺伝子変異を検索するため、まず発端者の凍結脾臓からmRNAの抽出を試みた。しかし、保存組織の量が残り少なく、用いた組織が不足したことと、保存期間が約8年と長期に及んでいたためか、分析には不十分な量しか取り出せなかった。このため、ホルマリン固定保存していた肝臓から、高分子DNAを充分な量を抽出した。11のエクソンの塩基配列をすべて同定いくには多大の労力と時間を要するので、PCR法を用いてGaucher病で約30報告されている点突然変異をスクリーニングすることにした。この際には、beta-glucocerebrosidase遺伝子には偽遺伝子が存在するため、偽遺伝子を増幅せず、本遺伝子のみを選択的に増幅するように各プライマーを作製した。本法にて、Gaucher病に高頻度認められるLeu-444 to pro,Asp-370 to Serおよび2型で報告のあるPro-415 to Argの変異は改めて否定された。今回新たに、Val-394 to Leu,Ser-364 to Thr,Cys-342 to Gly,およびTrp-312 to Cysの変異も否定された。来年度もさらに、変異の検索を続けると同時にbeta-glucocerebrosidase欠損以外の新たな病因の存在の有無を解明していきたい。
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