研究概要 |
多発性硬化症は細胞性免疫を中心に病態解明が進められているが,液性自己抗体に関しては現在まで特異的なものは同定されていない。今回,臨床的に診断確実な多発性硬化症患者32例と,コントロールとして他の神経系自己免疫疾患患者21例,健康人26例とでそれら血清と各種リン脂質,beta2-glycoprotein I(GPI)の反応性を検討した。また,一部の抗リン脂質抗体陽性多発性硬化症症例から,cardiolipinカラムにより精製した抗体のDNAとの交差反応性についても検討した。その結果,多発性硬化症の9%にIgGクラス抗リン脂質抗体,44%にIgMクラス抗体が検出された。この陽性率は正常コントロールよりも明らかに高く(P<0.01),他の神経系免疫疾患コントロール(P<0.01)よりも有意に高かった。DNAに対する交叉性は単鎖,2重鎖のいずれかにも反応するもの,両者に反応するものなど,かなり不均一であることが判明した。これらの抗体の反応性と臨床症状との相関はなかった。多発性硬化症患者抗リン脂質抗体の脱髄惹起性については不明であるが,多発性硬化症に伴う幅広い自己抗体のスペクトルの一部と推定された。今後,抗リン脂質抗体の臨床的意義について検討することが必要である。
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