最終年度は次の研究をおこなった。正常人6例の骨髄C5、Th2、L4の前角、錐体路、術索の各部位をドライアイスで凍結したまま約200mgを取出し、0.015モルのTES bufferで洗浄後、凍結乾燥した。次にN_2を3〜5分間フラッシュした後、115℃、24時間、6規定のHClで水解し、個々のsampleをアミノ酸分析機にかけハイドロキシプロリン(Hyp、hydroxyproline)を測定した。Hypの量はC5においては前角が8.48nmol/mg、錐体路が6.45nmol/mg、後索が15.8nmol/mg、Th2では前角が8.48nmol/mg、錐体路が6.98nmol/mg、後索が17.2nmol/mg、L4では前角が8.26nmol/mg、錐体路が7.21nmol/mg、後索が17.4nmol/mgとHypの量はC5、Th2、L4いずれにおいても後索が前角、錐体路に比較して有意に多かった(p<0.02)。Hypは膠原線維の特異的な構成アミノ酸であり、Hypの量はすなわち膠原線維の量を反映している。従って本研究の結果は運動ニューロンにおいて膠原線維の量は感覚ニューロンにおけるよりもはるかに少ないことを示しており、このことは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症機序に膠原線維の変化が関与しているとする筆者の仮説を強く支持するものである。 一方、グリコサミノグリカンは膠原線維の架橋結合に大きな影響を与えることが知られているが、ALS患者の皮膚および尿においてヒアルロン酸が対照群と比較して著明に増加しており、かつALSの経過と有意の正の相関がみられることが明らかになった。しかし、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸など他のグリコサミノグリカンはALSと対照群との間で差はみられず、このことはALS患者にみられる膠原線維の変化はヒアルロン酸と密接な関係のあることを示している。
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