研究概要 |
老齢ハンセン病患者の脳の老年性変化、すなわち老人斑、神経現線維変化について神経病理学的な検討を行った。国立療養所多磨全生園の協力を得て、病理解剖時に老齢ハンセン病患者の大脳11例を得た(平成6年3月現在)。その平均年齢は77.3歳であった国立精神・神経センター神経研究所の協力を得て、それぞれの新鮮標本について、前頭葉・側頭葉・頭頂葉・海馬・後頭葉より切片を作製し、抗betaアミロイド蛋白抗体にて老人斑を、抗タウ抗体にて神経原線維変化の出現頻度を免疫組織化学的に検討した。その結果、老人斑はこれまでの報告(Lancet 340;978,1992)と同様に、対照群である痴呆が無い非ハンセン病患者に比べ有意に出現頻度が低い症例も確認されたが、その一方多数老人斑の出現が見られる症例も確認された。ハンセン病患者の老年痴呆の発症頻度が低い理由として、老人斑の出現頻度の低下がこれまで挙げられていたが、最近この事を否定する報告もなされ(Lancet 342;1364,1993)、また今回の我々の検討においても、老人斑の出現頻度は必ずしも低くはない。この様に老人斑の出現頻度については一致した成績は得られていないことから、今後さらに症例数を増やす事が必要である。またハンセン病の病型や治らい剤の服薬歴、特にこれまでに老人斑との関係が問題視されているジアミノジフェニルスルホンの服薬歴との関係が重要であると考えられ、現在解析中である。一方、神経原線維変化の出現はほぼ全例に高頻度で見られ、老人斑の出現が見られない症例においてもその出現が認められ、それは特に海馬に顕著であった。神経原線維変化は神経細胞の機能障害や細胞死を反映している事から、今後ハンセン病患者脳に出現する意義・機序を明らかにする事が必要である。
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