インシュリン様成長因子II(以下IGFIIと略)が中枢神経系コリン作動性ニューロンの栄養因子であることは既に明らかにしたが、今回神経障害時における本因子の役割を明らかにする目的で脳半球を破壊したラットのIGFII産生および受容体分布の変化を検討した。さらに、IGFIIと類似した栄養因子活性を示すインターロイキン3(以下IL3)の脳内産生部位をバイオアッセイ法およびRT-PCR(reverse transcription-polymerase chainreaction)法で検索した。1)脳半球を破壊したラットでは3-5日目までにIGFII mRNAが著明に増加することが判明し、その産生は障害時に出現する反応性アストロサイトに起因すると思われる。しかし、IGFII受容体分布は破壊後5日目に皮質第3層及び第5層、海馬でわずかに減少が認められたが他の領域ではほとんど変化が見られなかった。従って、中枢神経系障害時ではIGFIIの産生促進が修復の主な役割を担っていると考えられる。2)IGFIIはグリア細胞で産生されニューロンでは全く検出されないことか明かとなった。一方、IGFII受容体はニューロンに主に検出され、コリン作動性ニューロン及びドパミン作動性ニューロンに高い発現が見いだされた。このことは本因子が神経系でも典型的なparacrine型増殖因子であることを示している。3)IL-3は海馬ニューロンで産生することが判明した。従って、IL-3は海馬に投射する中隔野コリン作動性ニューロンの標的細胞由来栄養因子として作用していることが考えられる。
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