研究概要 |
脳の一部に虚血病巣が存在すると週辺の神経細胞が虚血に対して抵抗性を示すか否かを明らかにする目的で砂ネズミを用い,核磁気共鳴スペクトロスコピーと免疫組織化学法による検討を行った。砂ネズミの右大脳皮質に中大脳動脈閉室または頭蓋磁石-微小鉄粒子静注による梗塞を作成した。梗塞3時間〜7日後の期間,梗塞周辺部に熱ショック蛋白の誘導は認められなかった。GFAP染色による検討では梗塞3日後に梗塞直下の海馬CA1領域にかけて著明な反応性アストロサイトの出現が見られた。アストロサイトは梗塞7日後にもほゞ同様に認められた。梗塞の1,3または7日後に5分間前脳虚血を負荷し,その1週間後に組織学的検討を行ったところ,非梗塞側の海馬CA1細胞の大半は死亡していた。しかし梗塞3日後の群の梗塞側CA1細胞は生存しているものが多く,この虚血耐性現象は特に梗塞直下において著明であった。梗塞1日後の群においても類似の耐性現象が見られたが,梗塞7日後の群では虚血耐性は明らかではなかった。梗塞3日後に20分間前脳虚血を負荷し,^<31>NMRスペクトロスコピーを用いてエネルギー代謝の変化を検討したところ,梗塞の有無にかゝわらずエネルギー代謝は同程度の障害を示した。以上の結果から,あらかじめ局所的な虚血巣が存在すると,その後数日間,周辺の神経細胞が虚血に対して抵抗性を示すことが明らかにされた。この局所的な虚血耐性は熱ショック蛋白の誘導とは無関係であり,エネルギー代謝障害の軽減によるものでもないと思われる。虚血後に出現するアストロサイトの神経細胞保護作用が関与すると思われる。
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