研究概要 |
腫瘍壊死因子(TNFα)は広範な生物活性をもつが、cachexinとしての作用以外にも心循環調節に関与することが報告されている。一方、細胞膜には二種類のTNFのレセプター(TNF-RI&-RII)が存在する。このTNFのレセプターの細胞外ドメインは様々な刺激で切離され、可溶性TNFレセプター(sTNF-RI&-RII)としてTNFの作用発現を調節している。我々は心不全症状の重症度(NYHA分類)とsTNF-RI&-RIIの濃度が密接に関連していることを平成5年度に報告した。 拡張型心筋症におけるsTNF-RIとsTNF-RIIの血中濃度と1)心血行動態諸指標,2)運動耐容能及び3)心房性利尿ホルモン(ANP)、脳性利尿ホルモン(BNP)との関連性について検討した。 【方法】対象は拡張型心筋症16例で,平均年齢は58.6歳であった。採血は心臓カテーテル検査開始時および運動負荷前後に行った。得られた血清と血漿(トラジロール入)を-70℃で保存した。運動負荷方法は症候限界性多段階負荷法を用いた。Enzyme-Linked Immunoassay(ELISA)法によりsTNF-RI、sTNF-RII,TNFαの血中濃度を測定し、血行動態諸指標および最大酸素摂取量(peakVO2)等と比較検討した。またIRMA法によりANPとBNPを測定した。 【結果】1)sTNF-RIおよびsTNF-RIIは肺動脈楔入圧等と有意な正の相関が認められた。心係数とはsTNF-RIが有意な逆相関が認められた。駆出率とはsTNF-RIが有意な相関を認めた。2)及び3)運動負荷前のsTNF-RIはpeakVO2と負の相関傾向が認められた。sTNF-RIは負荷前の1149±111pg/mlから14%,sTNF-RIIは1973±165pg/mlから8%負荷後漸増するも有意性を認めなかった。ANPは96±37pg/mlから120%,BNPは136±70pg/mlから40%負荷後有意に増加した。sTNF-RIとsTNF-RIIは有意な正相関を示したが,ANPとBNPとの間の相関の方がより高値であった。 【考案】可溶性TNFレセプターは臨床症状のみならず、心血行動態諸指標および運動耐容能と関連をもつことが明らかとなった。すなわち,心機能低下や心不全症候と強い関連を持った,あるいは心不全症候を修飾する因子と考えられる。ANPやBNPは運動負荷後著増したが,可溶性TNFレセプターは微増したものの今回の検討では有意性は認められなかった。循環血液中への分泌の機作の違いがあると考えられ興味深い。可溶性TNFレセプターは局所においてTNFの作用を減弱し、cachexiaなど心不全症状を修飾していると考えられる。
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