急性心筋梗塞において、閉塞した梗塞血管の血流を再開させる再潅流療法が普及するに至ったが、これに伴う再潅流障害が問題となっている。この機序の一端を解明するために、培養血管内皮細胞(ヒト臍帯静脈、牛大動脈内皮細胞)を低酸素に暴露させ、以下の内皮細胞機能の変化を調べた。 1.von Willebrand因子(血小板接着蛋白)の放出:ヒト臍帯静脈内皮細胞上清中のvon Willebrand因子量をELISAにより、定量した。低酸素暴露により、上清中のvon Willebrand因子量は有意に増加した。 2.白血球接着蛋白P-selectin(GMP-140)の細胞表面への出現:P-selectinに対するモノクローナル抗体を^<125>Iでラベルし、ヒト臍帯静脈内皮細胞への特異的結合を測定した。低酸素暴露により、細胞への抗体の結合が増加したことより、P-selectinの細胞表面への出現が増加したことが確認された。 3.Nitric Oxide(NO)の産生量:牛大動脈内皮細胞を低酸素に暴露させると、NO合成酵素活性が低下した。また、血管条片を用いて、その張力を測定すると、低酸素暴露後には、NOによる弛緩反応が減弱した。 以上の変化は、いずれも血小板、白血球の血管壁への付着、凝集を促進し、血流の障害を起こすことにより、潅流不全を招来する。血管内皮細胞の機能障害が再潅流障害に深く関与していることが判明した。
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