本研究の最初の目的はインシュリンによる中枢的交感神経活動調節の機序を検討する事にあったが、既存の報告と同様に、また、我々の結果においてもインシュリンラット中枢内投与は腎交感神経活動を増加させなかった(WKYとSHR)。一方インシュリンの末梢投与は、血管を拡張させるので、その機序について検討した。 対照は健康成人とした。インシュリンは15μunit/Kg/1分を15分間前腕動脈内に投与した。インシュリン投与前及び直後に前腕血流量を測定し、観血的に測定した血圧から血管抵抗を算出した。インシュリンによる血管拡張作用をNOの合的阻害剤でL-NMMA(4μmol/分×5分)及びプロスタグランディン合的阻害剤であるインドメサシン(75mg)投与前後で検討した。 [結果]インシュリンの投与は、前腕肘静脈のインシュリン血中濃度を約15から150μunit/molへと増加させた(n=7)。血中インシュリン濃度増加に伴い、前腕血流量は約20%増加し、プロスタサイクリンの代謝産物であるPGF_1 αも約15から30pg/mlへと増加した。インドメサシン投与後にはインシュリン投与によるインシュリン血中濃度はインドメサシン投与前と同様に増加したが、インシュリンによる前腕血流量の増加及びPGF_1 α増加は完全に抑制された。これらの事実は、インシュリンによる血管拡張作用はプロスタグランディンによる可能性を示唆する。 次にインシュリンによる血管拡張作用がNOを介するか否かを検討するためにL-NMMA投与前後でインシュリンによる前腕血管拡張作用を検討した。インシュリンの血管拡張はL-NMMAによる抑制されなかった。L-NMMAの作用はNOの基質であるL-arginineにより元に戻った。 [結論]ヒトにおけるインシュリンの血管拡張作用はプロスタサイリンを介する可能性がある。
|