1.研究目的 本研究では、冠循環の血流調節機構におけるATP感受性ポタシウムチャンネル(KATPチャンネル)の役割を以下の点について明らかにすることを目的とした。実験は麻酔開胸犬を用いて行った。 1)安静時冠血流維持、2)代謝性冠血管拡張、3)冠血流自動調節機構 2.研究成果 1)安静時の冠血流量維持におけるK_<ATP>チャンネルの役割. 実験は麻酔開胸犬を用いて行った。K_<ATP>チャンネルの選択的拮抗薬であるglibenclamideを冠動脈内に選択的に投与すると冠血流量は用量依存性に低下し、心筋虚血が生じた。K_<ATP>チャンネル開口薬ピナシジルや亜硝酸薬によって冠血流低下を防止すると、glibenclamideによる心筋虚血は出現しなかった。この成績は、KATPチャンネルが冠血流の維持機構に重要な役割を果たしていることを示唆する(Am J Physiol 1992)。 2)交感神経β受容体刺激よる冠血管拡張おけるK_<ATP>チャンネルの役割. 非選択的β刺激薬isoproterenol(ISO)による冠血管拡張はglibenclamide 5μg/minにより抑制された。しかし、β遮断薬後のISOによる拡張はglibenclamideにより変化しなかった。選択的β1刺激薬denopamineによる冠血管拡張はglibenclamideによりほとんど消失した。これらの成績から、心筋β1受容体刺激による心筋酸素消費量増加に伴う代謝性冠血管拡張はK_<ATP>チャンネルを介することが推測された(Am J Physiol 1994)。 3)冠自動調節能におけるKATPチャンネルの役割. 任意の冠潅流圧で左前下行枝を潅流し、冠潅流圧-血流量関係を調べた。一回目の実験では潅流圧を100mmHgから70mmHgの範囲で変化させても冠血流は一定に維持された(冠自動調節の存在)。二回目の実験をglibenclamide 10μg/kg・min投与下に行うと自動調節能は失われた。対照実験としてglibenclamideを投与せずに実験を二回繰り返して行うと自動調節能は温存された。これらの成績から、冠潅流圧低下に伴う冠血流調節機構にKATPチャンネルが関与していることが示唆された(Circ Res 1993)。
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