研究概要 |
細胞膜機能や膜を介する情報伝達系と各種内因性因子との関連、さらにそれらの高血圧における意義について検討するため、まず、ラット中枢からの神経伝達物質遊離に及ぼす興奮性アミノ酸やペプチドホルモンの影響を観察した。興奮性アミノ酸であるL-glutamate(L-Glu)はラット中枢内norepinephrine(NE),acetylcholine(ACh)releaseを増加させた。また、その作用はglycineによって増強され、MgやMK-801によって拮抗された。さらにL-Gluの作用は高血圧自然発症ラット(SHR)とWistar-Kyotoラット間で異なることから、興奮性アミノ酸はN-methyl-D-aspartate(NMDA)-receptorを介し高血圧の神経伝達調節に関与すると考えられた。一方、ペプチドホルモンであるneuropeptide Y(NPY)はラットstriatumからのdopamine(DA)releaseを抑制したが、その作用機序の一部はD2-receptorおよびGi-proteinを介するものと考えられた。また、bradykininはラットhypothalamusからのNE releaseを増加させたが、そのメカニズムはdihydropyridine-sensitive Ca channel刺激を介するものと考えられる。これらペプチドの細胞内情報伝達系に及ぼす影響や高血圧との関連については尚不明な点が多いが、SHRでNPYやbradykininに対する感受性に変化がみられることから高血圧の交感神経活性調節におけるpeptidergic regulationの異常が示唆された。 次に、細胞膜の物理的性質の検討として電子スピン共鳴ならびにスピンラベル法を用いて本態性高血圧患者から得られた赤血球の細胞膜fluidityを測定した。赤血球膜fluidityは高血圧群で正常血圧群に比し有意に低下しており、さらにその変化は高血圧の家族歴のある群ほど大きかった。また、insulinは細胞膜fluidityをCa存在下で強く減少させることから、特に高insulin血症や糖尿病を伴った高血圧の細胞膜機能調節にinsulinが関与し、その作用の一部は細胞膜を介したCa動態に関連したものであると考えられる。一方、非薬物療法としての有酸素運動療法は血圧を降下させるだけでなく、同時に有意に細胞膜fluidityの低下を改善した。 この様に、細胞膜ならびに膜を介する情報伝達系の異常、さらにそれらに影響を与える各種内因性因子に対する反応性の変化が神経活性の変動や血管反応性の亢進をひきおこし、高血圧の成因、維持機構に一部関与するものと考えられる。
|