研究概要 |
子宮内発育不全、体脂肪の減少、高度のインスリン抵抗性を示す症候群であるLeprechaunism(妖精症)をモデルとして子宮内発育不全症におけるインスリン関連因子の役割についてin vivo,in vitroの面から検討を加えた。インスリン受容体遺伝子の解析及びその異常遺伝子の発現実験にて本症の受容体遺伝子異常として新しい遺伝子変異を同定した。すなわち母親由来のalleleにおいてExon5の一部を含む領域に約1.5kbの欠失を認め、mRNA量も約70%に減少していた。父親由来のalleleではコドン87のLeu(CTG)がPro(CCG)に置換する点突然変異を認めた。NIH3T3細胞に両異常遺伝子を発現させたところインスリン結合能の低下、受容体蛋白の細胞内輸送の障害がみられた。父親由来の受容体遺伝子変異は受容体蛋白のインスリン結合部位に一致し、この部位の構造変化によりインスリン結合の低下が引き起こされたものと推測された。皮膚繊維芽細胞を用いたインスリン及びIGF-Iの結合能、細胞数、Thymidine,AIB,Glucoseの取り込みを指標としたインスリン、IGF-Iの作用機構を検討したところ、インスリン結合能は低下していたが、IGF-I結合能は正常児由来細胞と同等の結合能を有していた。また細胞数増加、Thymidine,AIB,Glucoseの取り込みを指標としたインスリン作用は低下していたが、IGF-Iは正常と同等の作用を示した。In vivoでのIGF-I治療により患児の代謝動態は良好にコントロールされており、また発育も順調である。以上のin vivo,in vitroの結果は本症においてインスリンレセプターを介する情報伝達系には異常がみられるがIGF-Iレセプターを介する情報伝達系は正常に作動していること、また子宮内発育不全の原因としてインスリンレセプター異常が関与していることが示された。
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