1.WKY/NCrjラットおよび正常コントロールラットの第6動脈弓の形態について (1)胎生11.5日のWKY/NCrjおよびコントロールラットの胎仔を48時間培養し、第6動脈弓の発生を実体顕微鏡下で経時的に観察した結果、この期間では両者に形態的な差を認めなかった。これより長い期間培養された胎仔は、同日令の子宮内発育した胎仔と比べて明らかに小さく、この研究には使用できなかった。 (2)神経堤細胞、あるいはそれの誘導に関与すると考えられるマーカー(HNK-1、N-CAM、ファイブロネクチン、サイトタクチン、テネイシン)の第6動脈弓内における分布について検討した結果、いずれのマーカーも胎生11.5から13.5日の両系統のラット胎仔において差を示なかった。胎生14.5日には、WKY/NCrjラット胎仔の第6動脈弓はコントロールに比して低形成になることが確認されたが、これらのマーカーの分布に差を認めなかった。N-CAMは前腸周囲の神経叢から第6動脈弓、さらに第3、4動脈弓(動脈幹)へとつながる一連の鎖として分布を示した。これは、いずれの系の胎仔においても第6動脈弓が神経堤細胞の遊走路となっていることを示しているが、この経路で生じる異常が心奇形発生の主たる要因ではないことを示唆している。 以上の結果から、WKY/NCrjおよびコントロールラットの第6動脈弓の形態や神経堤細胞に関するマーカーの分布に差を認めるに至らず、第6動脈弓へのマイクロインジェクションによる検討は行なわなかった。 子宮内発育した胎生14.5日以後のWKY/NCrjラットにおける第6動脈弓の低形成は、動脈幹分割の異常による二次的な環境動態の変化の結果であると考えられた。今後、動脈幹へのマイクロインジェクションにより動脈管分割に関与する神経堤細胞の遊走阻止を試み、心奇形ができるかどうか研究する予定である。
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