幼若動物で大脳皮質知覚運動野が損傷されると、その後皮質脊髄路に種々の可塑的変化がみられる。この機序を詳細に解明する第一歩として、マウス頚髄膨大部の右側皮質脊髄路を構成する軸索の微細構造を観察するとともに、軸索の数と径を経日的定量的に検索した。HRPによる検索ではマウス大脳皮質錐体細胞の軸索は錐体交叉部で交叉し脊髄後索腹側部を下行する(皮質脊髄路)。頚髄膨大部での皮質脊髄路の断面積は生後10日頃まで緩やかに、生後10日から14日にかけ急激に増加し、出生時の約3.5倍となった。皮質脊髄路を形成する軸索数は出生後急速に増加し生後10日で最高の約11万本となった。その後急激に減少し、生後14日には約7万本となった。その後も漸減し、約6万本となり一定となった。成長円錐は生後4日目ころ最も高頻度に観察されたが、生後10日以降観察されなくなった。出生直後の軸索の平均直径は0.34μmであったが、そのうち、生後10日ころに直径が0.7μmに達した軸索から有髄化し、有髄化は生後28日ころにほぼ完成した。すなわち、皮質脊髄路を構成する軸索数の急激な減少を呈した後、髄鞘化が進行した。以上の結果から、マウス皮質脊髄路では生後14日頃まで活発に過剰な軸索の伸展と消失がおこり、神経ネットワークの構築が進行していることが判明した。
|