DiGeorge症候群(DGS)や円錐動脈幹異常顔貌の遺伝子座位は染色体の共通欠失領域から22q11と考えられている。我々はこれら疾患群の原因遺伝子単離を目的として、まずヒト22番染色体全長を含む雑種細胞よりコスミドライブラリーを作製した。それらを種々の染色体転座によるヒト22番染色体の一部分を含む雑種細胞を利用してマッピングした後、DGS患者におけるdosage解析を行い、DGS共通欠失領域に位置するクローンを選別した。さらに効率よく欠失クローンを得るために、マイクロディセクション法によりヒト染色体22q11を切断し、PCR法により増幅したゲノムライブラリーを作製した。そしてDGS患者におけるdosage解析にて、DGS共通欠失領域に位置するクローンを選別した。これらを用いてヒトゲノムコスミドライブラリーのスクリーニングを行い、2種類のコスミドコンティグを構築した。FISH法によりこれらのコスミドコンティグの位置関係を決定した。こうして単離したDGS共通欠失領域に位置するコスミドクローンからダイレクトセレクション法を用いて、ヒト胎児脳cDNAライブラリーより、全長4.3kbのcDNAを得た。この遺伝子は胎児心臓、脳、肺、肝臓、腎臓にて発現を認めた。このcDNAの全塩基配列を決定したところ、ホメオボックス遺伝子の抑制遺伝子と相同性がある未知の遺伝子であった。この遺伝子のコードしている蛋白は塩基性ドメインとロイシンジッパー様ドメインを持ち、転写因子として作用する蛋白と考えられ、LZTR-1と命名した。この遺伝子は、大部分の患者で欠失していたが、最小共通欠失領域を決定している細胞株では欠失していなかった。これらの事実から、この疾患群が隣接遺伝子症候群と仮定すれば、LZTR-1の欠失は、これら疾患群の表現型に一部関与しているものと思われた。
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