先天性高乳酸血症は有機酸代謝異常症の中で最も頻度の高い疾患であるが、本症を確定診断するためにはピルビン酸代謝関連酵素の活性測定が不可欠である。従来、先天性高乳酸血症の系統的な酵素診断には一般に培養皮膚線維芽細胞が用いられており、ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)欠損症、電子伝達系酵素欠損症およびTCAサイクル異常症などが酵素診断されている。しかし、患者から皮膚を採取し、培養皮膚線維芽細胞株を樹立することは特定の医療・研究施設に限られている。そこで本研究では多くの医療施設で容易に採取できるヘパリン血から分離したリンパ球にEBウイルスを感染させたEBウイルス株化培養リンパ球(培養リンパ球)を用いた先天性高乳酸血症の系統的酵素診断法の確立を行った。 まず最初に正常対照から採取した培養リンパ球を用いて、PDHC活性、PC活性およびPEPCK活性の測定法を確立した(内藤)。これらの測定によりそれぞれの正常値が得られた。また培養皮膚線維芽細胞を用いて診断された3例のPDHC欠損症および1例のPC欠揖症から得られた培養リンパ球でも、それぞれの活性が低下しており、先天性高乳酸血症の中で最も頻度の高い疾患であるPDHC欠損症およびPC欠損症の酵素診断が培養リンパ球を用いて可能となった(黒田)。容易に採取できるヘパリン血から得られる培養リンパ球を用いた酵素診断法の確立により、これまで酵素診断が因難であった多くの高乳酸血症患児の酵素診断が可能になった。さらに保因者診断も容易になり、家族内検索も可能になった。これまでに各地の医療施設から培養リンパ球を用いた119例の先天性高乳酸血症の酵素診断の依頼があり、PDHC欠損症9例と保因者3例およびPC欠損症1例と保因者2例の診断が可能であった。
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