研究概要 |
悪性腫瘍の治療や臓器移植の補助療法にともなう宿主の免疫抑制状態におけるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染が臨床的に問題となっている。HCMVの潜伏感染および再活性化に関しては不明な点が少なくない。我々はHCMVの潜伏感染におけるマクロファージ-単球系細胞の役割に注目し、in vitroでの検討を加えてきた。今回は周産期の初感染における末梢血単核球(PBMC)のHCMV感染の意義について検討した。尿よりHCMVが分離され、HCMV特異的IgM抗体の上昇が確認された1歳未満の乳児期肝機能障害患児13例を対象とした。またHCMV抗体陰性患者よりのPBMCを対照とした。HCMVの分離はMRC-5細胞を用いCMVのIEA,EA蛋白に対する単クローン抗体を使用した。抗HCMV-IgG,IgM抗体の測定にはELISA法を用いた。肝炎患児より分離したPBMCのCD2,CD4,CD8陽性細胞におけるHCMV-IEA,LA抗原の出現はフローサイトメトリー(FCM)を用いて解析した。またPBMCよりポリスチレン高磁気ビーズを用いて、CD2,CD4,CD8陽性細胞を分離採取し、PCR法にてHCMV-IE,LA DNAの検出を試みた。FCMでは13例中3例でCD8陽性細胞にHCMV-IE蛋白陽性細胞が高率に出現した。PCR法では同様に13例中5例の患児のPBMCのCD2,CD4,CD8の各分画よりPCRでCMV-IE,DNAが検出されたが、LA,DNAは検出されなかった。CMV抗体陰性患者のPBMCよりはFCMでCMV抗原陽性細胞は検出されず、PCR法でもCMV,DNAは検出されなかった。周産期のHCMV初感染においては、FCMおよびPCR法によってCD8陽性細胞に高率にCMV-IEA蛋白およびIEA,DNAが検出された。今回の結果より、免疫抑制状態などにおける潜伏感染および再活性化においてもsuppressor-cytotoxicT細胞におけるCMVの感染および増殖が重要な役割を持つことが示唆された。今後更に、suppressor-cytotoxic T細胞とCMV感染の再活性化の関連、特にサイトカインの関与について検討を進める予定である。
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