フェニルケトン尿症(PKU)は肝臓のフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の欠損によって発症する先天性代謝異常症の1つで、常染色体劣性遺伝型式をとる。PAHは白血球細胞等ではその酵素活性は発現せず、mRNAレベルも極めて低く、cDNAを利用した遺伝子解析は不可能と考えられていた。我々はEBウイルスにより樹立された培養リンパ芽球細胞からRNAを抽出した後、逆転写酵素およびNestedPCR法によりPAHcDNAを増幅合成し、サンガーのダイデオキシ法にて変異塩基配列を同定した。その結果、241番目のアミノ酸がArgからCysに変るCGC-TGCのミスセンス変異(R241C)と408番目のアミノ酸がArgからGlnに変るCGG-CAGのミスセンス変異(R408Q)が認められた。この両変異遺伝子は日本人PKU遺伝子のそれぞれ3.9%と1.3%と占めており、いずれもハプロタイプ4に属していた。R241は新しい変異遺伝子であり、R408Qは北欧でハプロタイプ12を示す患者より認められた変異遺伝子と同一であった。さらに、2つの欠失変異を同定した。第1例はNested PCRの結果、約280bp短いPAHcDNAが得られ、その塩基配列ではエクソン5と6が欠失していた。患者ゲノムDNAのサザン解析ではTrefzらの報告にある新しいRFLPパターンを示し、ゲノムDNAでの約10kbに渡る欠失が考えられる。第2例では約130bp短いPAHcDNAが得られ、その塩基配列ではエクソン11が欠失していた。患者ゲノムDNAのダイレクトシークエンス解析ではエクソン11の5末端より3番目のCがAに変るY356X変異が認められ、この変異がスプライシング機能に影響与え、エクソン11のスキッピングを引き起こしたと考えられる。PKUの遺伝子解析においてもゲノムDNAの両者からの解析が有用であった。
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