フェニルケトン尿症(PKU)は肝臓のフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の欠損によって発症する先天性代謝異常症の1つで、常染色体劣性遺伝型式をとる。現在までのところ、世界中でPKUの遺伝子変異は200以上同定されており、各国、各地域で遺伝子変異の種類は異なり、非常に多様性に富んでいる。日本人種におけるPKU遺伝子も考えられてきた以上に多様性に富み、これまで同定された12の遺伝子変異で約60%の対立遺伝子の変異を明かにし得たに過ぎない。また、欧米白人種で認められているような優位な遺伝子変異もない。そのため、両対立遺伝子の遺伝子変異が同定されていないPKU患者に対する出生前診断の方法として、最近開発された間接的DNA診断法の中でもPAH遺伝子のイントロン3領域に存在するShort Tandem Repeat(STR)のDNA多型による出生前診断の有用性の検討を行なった。日本人PKU患者19家系のゲノムDNAを用いて、STR領域をPCR法にて増幅合成し、ポリアクリルアミドゲルの電気泳動にて分析した。その結果、日本人ではSTRで増幅されるDNA長は多様性に富み240bpと244bpが多く、PKUと正常対立遺伝子の間ではそのDNA長に有意な差はなく、また、そのDNA長のパターンは中国人のものとよく似ていた。19家系のうち15家系の両親にSTRのHeterozygosityが認められ、理論的にも今回分析した日本人PKU家系ではそのHeterozygosityは70%を示していた。そして、このSTR対立遺伝子はメンデルの法則に従って親から子へと遺伝していた。以上のことから、日本人種においても70%以上のPKU家系でDNA診断が可能であり、しかも検体採取後数日で結果を得ることができる。このことは実際に出生前診断を行なう場合STR法は非常に有用であることを示している。
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