ロイコトリエン(LT)B4は、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性皮膚疾患の発症に重要な役割を果たしていると考えられている脂質メディエーターであり、LTA4水解酵素はアラキドン酸から5_-リポキシゲナーゼにより生じたLTA4を水解してLTB4を作る重要な酵素である。ヒト皮膚におけるLTA4水解酵素の局在に関しては、抗ヒトLTA4水解酵素抗体を用いて免疫組織学的に検索したところ、表皮細胞および真皮の浸潤細胞、血管内皮細胞にその局在が認められた。さらに、HLPCを用いてLTA4水解酵素活性を測定したところ、ヒト表皮、ヒト末梢リンパ球、多形核白血球では、高い酵素活性を認めたが、ヒト真皮では有意の酵素活性を検出しえなかった。さらに、私達はアトピー性皮膚炎患者の末梢血白血球のLTA4水解酵素活性を測定した。患者は皮疹の程度に応じて重傷、中等症、軽症に分類した。重傷アトピー性皮膚炎患者では、末梢多型核白血球のLTA4水解酵素活性が123.94±15.92Unitであり、中等症アトピー性皮膚炎(49.03±9.12Unit)と軽症アトピー性皮膚炎(28.74±10.70Unit)および健常人(15.14±1.67Unit)と比較すると有意に上昇していた。一方、末梢単核球のLTA4水解酵素活性もまた重傷アトピー性皮膚炎患者において、中等症、軽症アトピー性皮膚炎患者および健常人に比して有意に上昇していた。重傷および中等症アトピー性皮膚炎患者の末梢多型核白血球のLTA4水解酵素活性は、皮疹の改善と共に低下した。以上の結果よりLTA4水解酵素活性はアトピー性皮膚炎の発症や進展になんらかの役割を果たしていると考えられる。また、抗アレルギー剤である塩素アゼラスチンはin vitroでアトピー性皮膚炎患者の多型核白血球のLTA4水解酵素活性をで阻害した。このことよりある種の抗アレルギー剤のアトピー性皮膚炎への効果の少なくとも一部はLTB4産生抑制によることが示唆された。
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