本研究はhairless mouse;(HR-1xHR/De)F1を対象に、紫外線(UV)照射による皮膚黒化機構への後葉性α-melanocyte stimulating hormone(αMSH)の意義を追及することを目的とした。先の成績から、(1)循環血中αMSHは主に下垂体後葉由来であり、また(2)血中低αMSH濃度がUV照射による皮膚黒化を阻害することから、後葉からのαMSH分泌がこの機構内で重要な役割を有すると推察した。本実験ではこの黒化機構をより詳細に理解するため、8回のUV照射(1/2days)前後における皮膚黒化度(L-値)と血中αMSH濃度に加え、melanin合成の律速酵素とされるtyrosinaseの表皮内活性(TA)を測定した。[実験-1]対照(C)としてのSHAM手術、後葉切除術(LOBEX)およびLOBEX+αMSH(10μg/day)投与を行った3群において以下の結果を得た。先の実験と同様、L-値の減少(皮膚黒化)はSHAMとLOBEX+αMSHの2群に、血中αMSHの著明な低下はLOBEX群にのみ認められたが、各群ともUV照射前後における血中αMSH濃度はその変化を示さなかった。一方、照射前TA値はLOBEX群がC値の約30%となる顕著な減少を示し、LOBEX mouseへのαMSHの補充投与はこれをC値まで増加させた。さらに、皮膚黒化を認めたCおよびLOBEX+αMSH群TAは、UV全照射後、前値の15倍以上に上昇したが、LOBEX群TAは、照射後の増加率(前値の9倍)、絶対値(C値の20%)共に有意に抑制された。[実験-2]皮膚組織を培養(18時間)し、αMSH(10^<-7>M)添加およびUV照射(100mJ/cm^2x2)のTAに対するそれぞれの作用を検討したところ、両処置共にTAを有意に増加させた。 以上から、(1)循環血中αMSHは表皮内TAを直接的にcontrolし、(2)血中αMSHの低濃度はTAの下降を招き、皮膚黒化を阻害する。また(3)LOBEX群表皮と無処置培養皮膚中TAのUV照射後の上昇は、複雑なTA調節機構の存在を示唆し、おそらくαMSH以外の物質もこれに関与する可能性を示したものと思われる。
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